私は、今、私の息子が送ってくれた『「私」を生きるための言葉 日本語と個人主義』(研究社 泉谷閑示著)という本を読んでいます。気鋭の精神科医が臨床経験をもとに、日本語に潜む神経症性を徹底分析したものです(「神経症性」とは「自分がどう感じるのか」「自分がどう思うのか」ということが、「人からどう思われるか」「どう見られたいのか」ということによって退けられてしまって自分自身が委縮してしまっている状態のことを言うのだそうです。「KY(空気読めない)」と思われたくないのも典型的な神経症性でしょう)。

その第一章「日本語と日本人」の中で取り上げられているものをご紹介しながら、私の授業で、どんな形でそれが表れているのかを見ていきたいと思います。これからご紹介していくものは皆「英語でしゃべる=日本語を英語に置き換えてしゃべる」傾向のある日本人が結果として間違えやすい英語に直結しているものです。

(18)「子供さんは何人ですか?」と「あなたは何人の子供を持っていますか?」

これは「主語を立てる言語(主語の義務化)」と「主語を立てない言語」の世界観の違いが言葉に現れる代表的な例の1つとして紹介されています(日本語の例文は若干修正してあります)。日本語では、普通は人称代名詞の一人称・二人称(英語の I とyou)は使いませんね。「あなた」と「you」が同じかどうかは次回検討したいと思います。

この例文では、「これに対応する英語を知っている」ことが多いので “How many children do you have?”(時として “How many child do you have?” という表現を耳にすることもありますが、正しくは children と複数形にして下さい) “I have two children.” という表現が使えることが多いです。しかし “Are you married?” “Yes, I am married.” “Tell me about your family?” “My family is my wife and a daughter. She is three years old.” の下線部の表現にあるような BE 動詞を使った表現が多くなる傾向があります。「私の家族は3人です」なら「We are a family of three.」という表現が辞書には紹介されています。

靴屋に行って「こんな靴ありますか?」と店員に尋ねる場合、日本人なら “Are there any shoes like these?” と発話することもあるでしょうが、英語的な発想では “Do you have any shoes like these?” “Have you any shoes like these?”(イギリス)とHAVE 動詞を使った表現になります。

言語学者の池上嘉彦氏は、これを「日本語=BE言語」「英語=HAVE言語」と述べておられるようです。

「この車にはカーナビがついている」というような場合、日本人の多くは「この車にはカーナビがインストールされている」というような表現を好むように思われます。英語的には「この車はカーナビを持っている」と表現されることが多いと思います。

「私は」と「主語を立てる(主語の義務化)」ということは、大げさに言えば、その発言内容の責任者が自分であると明言するとともに、発言内容はあくまで自分の個人的意見であり普遍的真理を述べているわけではない、という意味合いがそこに生じます。日本語の主語を明示しないしゃべり方は「個人」というものの確立を妨げていると泉谷閑示氏は述べています。

実は、私は友人にこの本をメールで推薦したのですが、無意識に「面白い本を紹介します。」と書き出していました。主語も、もう1つの目的語も表していません。この本を紹介するのだからと思い直し敢えて「(私は)(あなたに)面白い本を紹介します。」に書き直したという経緯があります。