我々日本人は、手紙の書き出しで「拝啓」にあたる部分は「Dear Sir [Madam; Mr. A; Mrs. A; Miss A」だと思っているフシがあります。辞書をよく読めば「米ではmy のつかないこの形が親愛の情が深く、My dear … は形式的、英では反対になる」(The New Century)と書いてありますので、正式には「My dear Mr. A」のように書きだすべきだと分かります。

しかし、余りにも「Dear …」に慣れてしまったので、これに「拝啓」を当てはめ「・・・」の部分に宛先を書けばよいと思い込んでいるのだと思います。第39回(1997年)日本レコード大賞「優秀作品賞」受賞作の1つも「Dear My Friend」のタイトルでした。

明治大学マーク・ピーターセン教授によると、Dear My Friendというのは、存在しえない英語であり(2013年4月「実践 日本人の英語」P.27)、不気味な感じさえするそうです。

「dear」は「拝啓」の意ではなく。「高価な、大切な、かわいい、いとしい、親愛な」の意を持つ「形容詞」です。一方「my」は「所有形容詞」で「代表的な限定詞(名詞の前につけて、その名詞概念の該当する範囲を限定する語)」の1つです。「a」「the」「my」「this」「these」等も皆「限定詞」です。これらの限定詞は必ず1つだけ、しかも「形容詞+名詞」の前に持ってこなければならないというルールがあります。「a my friend」は不可なので「a friend of mine」のように言う必要があります。

このルールに照らせば「Dear My Friend」は「英語的」には不可で「My Dear Friend」と言う必要があります。映画の名作「My Fair Lady」は正しい語順です。

「Dear My Friend」は、実はもう1つ日本人の気がつきにくい問題点を内包しています。「限定詞」はそれが付く「名詞の範囲を限定」します。「Friend」は単数ですから、「名詞の範囲を限定」するためには必然的に「私の友だちは1人しかいない」ことが前提になります。「My Friends」とすると「私の複数の友だちたち」の範囲を限定することになります。そうすると論理的に「私の複数の友だちたち全部」を指し示すことになります。このことをマーク・ピーターセン教授が26年前に「日本人の英語」で指摘されたときには日本中の熱心な英語学習者に衝撃を与えました。最近は英語の勉強をしている人が広く知るところとなりましたが、日本語にはないルールですのでついついミスを犯してしまう可能性はあります。「the」も「my, your, his, her, our, their 等の所有形容詞」も多少意味のニュアンスが異なりますが基本的には同じ使い方です(所有形容詞はあくまでも直接的に「所有」を意味するのに対しthe は「特定する意識」だと理解しておけばよいでしょう)。