「much」という語は日本語を対応させようとすると苦労する語の1つだと思います。

(1)「much better」は殆ど日本語化しています。意味は「ずっとよい」。
(2)「much the best」は「the very best」と語順が異なっていますが意味は「断然一番よい」です。しかし、著者は「much the best」という表現をアメリカで聞いた記憶はありません。小さな子供は時として「the bestest」と口にします。著者も意識的に使ってみましたが気持ちは伝わるようです。「much the best」は一種の成句として捉えるのがベストかも知れません。

以上(1)(2)のように「much」が形容詞・副詞の比較級・最上級を修飾する場合は「ずっと、はるかに」の意味になります。

(1) ところが「much the same」はどうでしょう。E-Gate によれば「(muchは) like, the same, as … など似ているあるいは同一であることを表す語句の前につける」、意味は「殆ど」。「much」は普通「多くの、たくさんの、多量の(形容詞)」「非常に、とても(副詞)」の意だと理解されているでしょうから、「much the same」を「殆ど同じ」と日本語に置き直すのは難しいものがあるでしょう。

In much the same bold spirit, I rapidly absorbed the other gestures, turns of phrase and exclamations popular among my peers, as well as grasping the deeper mores and etiquettes prevailing in my new surroundings.
上記は Kazuo Ishiguro の When We Were Orphans の一節です。「殆ど」は「almost」「nearly」「practically」「about」「virtually」等でも表すことができます。ですから、ここは「almost the same bold spirit」と表現することもできそうですが、作者が「much」を選択したのは何故でしょうか。著者にはそれを解説できるだけの英語力はありませんが、これらの語達に比べて「物凄さ」の度合いが大きいように感じます。

訳すのに難しい「much」の使い方例:
make much of … : ・・・を重大であると考える
So much for today. : 今日はこのくらいにしておきましょう
much as … : ・・・であるけど
much less … : (否定文を受けて)ましてや・・・でない
not so much A as B : A というよりはむしろB