5月9日の日経朝刊の Deep Insight 欄から抜粋:

井上寿一・学習院大学長
日本は1930年代、地方の農村が困窮し、この危機を克服するため、経済権益を求めて中国に進行したという学説が戦後、流布されてきた。だが、日中が全面戦争に入った37年ごろは日本の経済は絶好調であり38年も好況に沸いていた。日本の貧しさが日中戦争の原因ではないというのが近年、ほぼ共有されている学説だ。

庄司潤一郎・防衛研究所幹事
日中戦争は陸軍の主導により全面戦争に入っていったという見方が長年主流だったが、対ソ戦へのそなえを優先したい陸軍中枢は当初、拡大に慎重だった。むしろ、華中や華南に権益を持つ海軍が積極的に動いたことに近年、焦点が当てられつつある。「蒋介石日記」の公開に伴い、蒋介石も当初から上海で攻勢に出るつもりだったことが分かってきた。

「農村の困窮⇒満州進出」「陸軍=悪、海軍=善」については著者もそのように教えられてきました。しかし実態は必ずしもそうではなかったようです。

同じようなことが、著者が得意としている英語の世界でも時々起きています。多分英語の大家が何かで書かれたものがそのまま「正」とされ流布されてきたのではないでしょうか。今思い出すものをいくつか列挙します。

(1) Tennessee Valley Authority
昔の辞書には「テネシー渓谷開発公社」と出ていました。「valley」は「くぼ地」であって「渓谷」ではありません。流石に今の辞書は「テネシー川流域開発公社」としています。

(2) He is as tall as his father.
「彼は父親と同じ背丈だ」というのが流布している訳です。間違いではありませんが、アメリカに暮らした感覚から言えば「彼は(少なくとも)父親と同じ位の背丈はある」のイメージです。

(3)The suspect is at large.
いくつかの解説書は揃って、「large」が「大きい、広い」の意であるので、このような意味になると説明しています。「The suspect is at large.」は「容疑者は広いところにいる」⇒「捕まらないで逃走中」のような説明です。

しかし、あのウエブスター大辞典には次のような説明があります。
An obsolete meaning of "large" as a noun is "freedom, liberty," now surviving only in the phrase "at large" (Webster's unabridged, 1934).
「large」が「大きい、広い」の意であるからではなく、古くは「自由」を意味したから、というのが正しい説明。

(4) 英語は5文型
日本での英文法の出発点です。しかしこれは極めて便宜的なもので従来の5文型では説明できない文もあります。例えば「He came home all wet.」は無理やり「SVC」文型に分類されます。この文は実は、「He came home.」と「He was all wet.」の2つの文を1つにしたもので「SVC」と言い張るのは少々無理があります。そもそも「5文型」なるものは日本特有の「英文法」でアメリカでも、イギリスでも、外国人が書いた英文法書でも出てきません。