(2)「てにをは」はどこにある

日本語はある言葉に「は」「が」「を」「に」等の助詞をつけることによってその言葉の文法的な働きが決まります。現代英語では、この助詞にあたるものはなく、語順によってその働きを決めることは良く知られています。「私はあなたを愛しています」は「I love you.」以外の語順はありません。日本語では「愛しています あなたを 私は」も可能です。

ノルマン人が西暦1066年に England を征服し(ノルマン・コンクエスト)、ノルマン語・フランス語がそれまでの英語に多大の影響を与えたため、西暦449年から1100年頃までの英語を「古英語」と言いますが、古英語では今の英語の語順よりも遥かに語順に関しては自由度があったようです。それは古英語では「語形変化または屈折(inflection)」したからです。この語形変化または屈折が言葉の文法的な働き(現在の主格、所有格、目的格、単数・複数等)を決めてくれたからです。

語形変化または屈折とは,名詞,代名詞,形容詞,冠詞,動詞などが,文中での文法的役割に応じて語形(特に語尾)を変化させることです.射し込む光が対象に応じて様々に屈折するように,語尾等が文法的役割に応じて様々に折れ曲がる,というイメージです.日本語でいえば,動詞や形容詞の「活用」に近いものと想像してください。

例えば、古英語の名詞・代名詞・冠詞・形容詞には次のような格がありました。「王様(cyning)」(発音はキュニング)では
主格(・・・は、が)⇒cyning(単数)、cyningas(複数)
対格(・・・を)⇒cyning(単数)、cyningas(複数)
属格(・・・の)⇒cyninges(単数)、cyninga(複数)
与格(・・・に)⇒cyninge(単数)、cyningum(複数)
現代英語では名詞の主格と目的格は同じ形をしていますが、この古英語の法則が引き継がれているのでしょう。現在の「SVOO」文型では両方の「O」は同じ形をしていますが、昔は形が変わっていたので「語順」も今より自由度があったことが推測されます。

現代英語では名詞の複数形には通常「-s」または「-es」をつけますが、これは上記の「-as」に由来します。brother/brethren, child/children, ox/oxen のように「-en」を付ける名詞もありますが、これも古英語の複数形を作る1つのパターンでした。man/men, foot/feet, goose/geese, tooth/teeth は古英語の複数形を作る1つのパターン+発音変化の結果です。

「days and nights」は「昼も夜も」の意ですが、この「days」も「nights」も名詞に「s」を付けて複数形にしたように見えますが、実は上記の属格の名残です。古英語の属格には副詞用法があったのです。weekends, Saturdays も「繰り返し」のイメージの時には副詞として使えます。He meets his girlfriend Saturdays.

現代英語では「king’s」のように、所有格に「アポストロフィー(元来は省略の意)」をつけますが、所有格にあたる古英語の属格には「アポストロフィー」をつけるというやり方はありませんでした。「アポストロフィー」を使うようになったのは18世紀に入ってからのようです(フランス語の影響)。ですから、シェイクスピア(1564-1616)は「Times foole (= Time’s fool)<時の道化>」のように属格と同じアポストロフィーなしで使っています。

屈折語では時代が下るとともに屈折的特徴が失われます。屈折の消失が進んでいる例として現代英語が挙げられます。英語ではインド・ヨーロッパ語族の特徴である動詞の屈折語尾はほとんど失われ、直説法能動態現在単数三人称に‐sがつくのみ、名詞では格の区別が語の上から失われ、形の上では基本形(主格、目的格にあたる部分)と所有を表す 「's 」を伴う形の二つに収斂しています。このような語形変化の消失には大きく二つの原因が挙げられます。
1つは他言語との接触による簡略化です。他言語話者との接触が進み、他言語話者が多くその言語を使うようになると、一般に複雑な変化が失われる傾向にあります。英語の場合はヴァイキングの侵略による北欧語との接触とノルマン・コンクエスト(1066年)によるノルマン・フランス語との接触が消失を促進したといえます。別の原因は音韻の変化による語形の消失です。母音の融合や子音の脱落などにより、元あった差異が失われ語形が減少しました。

現代のドイツ語、フランス語、スペイン語等には男性名詞、女性名詞、中性名詞があり、それに伴い冠詞も変えなくてはなりません。古英語では wife の語源である wif(女)は中性名詞でした。現代英語ではこれは完全に消滅しました。

昔、娘がまだ大学生だった時に「主格、対格、属格、与格」の質問を受け、全く答えられませんでした。現代英語の本質を理解するのに欠くことのできない知識であることを再認識しました。

日本語はある言葉に「は」「が」「を」「に」等の助詞をつけることによってその言葉の文法的な働きが決まります。現代英語では、この助詞にあたるものはなく、語順によってその働きを決めることは良く知られています。「私はあなたを愛しています」は「I love you.」以外の語順はありません。日本語では「愛しています あなたを 私は」も可能です。

ノルマン人が西暦1066年に England を征服し(ノルマン・コンクエスト)、ノルマン語・フランス語がそれまでの英語に多大の影響を与えたため、西暦449年から1100年頃までの英語を「古英語」と言いますが、古英語では今の英語の語順よりも遥かに語順に関しては自由度があったようです。それは古英語では「語形変化または屈折(inflection)」したからです。この語形変化または屈折が言葉の文法的な働き(現在の主格、所有格、目的格、単数・複数等)を決めてくれたからです。

語形変化または屈折とは,名詞,代名詞,形容詞,冠詞,動詞などが,文中での文法的役割に応じて語形(特に語尾)を変化させることです.射し込む光が対象に応じて様々に屈折するように,語尾等が文法的役割に応じて様々に折れ曲がる,というイメージです.日本語でいえば,動詞や形容詞の「活用」に近いものと想像してください。

例えば、古英語の名詞・代名詞・冠詞・形容詞には次のような格がありました。「王様(cyning)」(発音はキュニング)では
主格(・・・は、が)⇒cyning(単数)、cyningas(複数)
対格(・・・を)⇒cyning(単数)、cyningas(複数)
属格(・・・の)⇒cyninges(単数)、cyninga(複数)
与格(・・・に)⇒cyninge(単数)、cyningum(複数)
現代英語では名詞の主格と目的格は同じ形をしていますが、この古英語の法則が引き継がれているのでしょう。現在の「SVOO」文型では両方の「O」は同じ形をしていますが、昔は形が変わっていたので「語順」も今より自由度があったことが推測されます。

現代英語では名詞の複数形には通常「-s」または「-es」をつけますが、これは上記の「-as」に由来します。brother/brethren, child/children, ox/oxen のように「-en」を付ける名詞もありますが、これも古英語の複数形を作る1つのパターンでした。man/men, foot/feet, goose/geese, tooth/teeth は古英語の複数形を作る1つのパターン+発音変化の結果です。

「days and nights」は「昼も夜も」の意ですが、この「days」も「nights」も名詞に「s」を付けて複数形にしたように見えますが、実は上記の属格の名残です。古英語の属格には副詞用法があったのです。weekends, Saturdays も「繰り返し」のイメージの時には副詞として使えます。He meets his girlfriend Saturdays.

現代英語では「king’s」のように、所有格に「アポストロフィー(元来は省略の意)」をつけますが、所有格にあたる古英語の属格には「アポストロフィー」をつけるというやり方はありませんでした。「アポストロフィー」を使うようになったのは18世紀に入ってからのようです(フランス語の影響)。ですから、シェイクスピア(1564-1616)は「Times foole (= Time’s fool)<時の道化>」のように属格と同じアポストロフィーなしで使っています。

屈折語では時代が下るとともに屈折的特徴が失われます。屈折の消失が進んでいる例として現代英語が挙げられます。英語ではインド・ヨーロッパ語族の特徴である動詞の屈折語尾はほとんど失われ、直説法能動態現在単数三人称に‐sがつくのみ、名詞では格の区別が語の上から失われ、形の上では基本形(主格、目的格にあたる部分)と所有を表す 「's 」を伴う形の二つに収斂しています。このような語形変化の消失には大きく二つの原因が挙げられます。
1つは他言語との接触による簡略化です。他言語話者との接触が進み、他言語話者が多くその言語を使うようになると、一般に複雑な変化が失われる傾向にあります。英語の場合はヴァイキングの侵略による北欧語との接触とノルマン・コンクエスト(1066年)によるノルマン・フランス語との接触が消失を促進したといえます。別の原因は音韻の変化による語形の消失です。母音の融合や子音の脱落などにより、元あった差異が失われ語形が減少しました。

現代のドイツ語、フランス語、スペイン語等には男性名詞、女性名詞、中性名詞があり、それに伴い冠詞も変えなくてはなりません。古英語では wife の語源である wif(女)は中性名詞でした。現代英語ではこれは完全に消滅しました。

昔、娘がまだ大学生だった時に「主格、対格、属格、与格」の質問を受け、全く答えられませんでした。現代英語の本質を理解するのに欠くことのできない知識であることを再認識しました。