(27)the の語源は that

ジーニアス英和大辞典には「the の語源は(古英語の)指示代名詞 se の変形である the」と出ています。これにもう少し付け加えると、古英語の指示代名詞には名詞と同じ様に「単数」「複数」「男性」「女性」「中性」別に「主格(・・・は)」「対格(・・・を)」「属格(・・・の)」「与格(・・・に)」「具格(・・・で)」がありました。se は「単数」「男性」「主格」でした。現在の that は「単数」「中性」「対格」から来ています。古英語では指示代名詞と定冠詞の境界は不分明でse は長音で発音すれば指示代名詞、短く発音すれば定冠詞と認識されたようです。これは今の「that」と「the」の発音と共通しています。

The sooner, the better.(早ければ早いほどよい)の the は副詞ですが、この方は se の具格が起源です。

全ての「the」の使い方を合理的に説明するのは難しいものがありますが、共通するのは「話者が相手も共通の認識に立てるハズだ」と思った時に使われるということです。「that」は「あの」「その」と具体的に指差すイメージの言葉ですが「the」も同じです。the の語源が thatであることを知れば納得がいきます。

ところで「英語の歴史から考える 英文法の『なぜ』」(朝尾幸次郎 大修館書店)には「複数のメンバーによる歌唱グループやバンドの名前は the Beatles, the Beach Boys, the Rolling Stones のように<the + 複数名詞>という形をとります。これらはメンバーが不定のものではなく、全員がそろって完結するものだからです」と書いてありますが、誤解を与えると思います。歌唱グループやバンドが自分たちの名前を何とするかは自由なハズです。「Queen」は無冠詞です。「the」をつけた歌唱グループやバンドには「あの・・・」と思って欲しい願望があったかも知れません。高名なトムソン/マーテイネットの「実例英文法」には4ページに亘って「the」の用法例を挙げていますが「聖歌隊・オーケストラ・ポップスのグループなどにも the が使われる」と書かれていて「使わなければならない」とは読めません。<the + 複数名詞>で言えることは「全部」ということです。「話者が相手も共通の認識に立てるハズだ」と認識する「複数」は全部でなければ論理矛盾だからです。言葉というものは理屈だけでは説明しきれない言語習慣というものがあります。「the」もその内の1つでしょう。