前に『a の語源は an(ひとつ)であり、その頃は子音の前であれ母音の前であれ全てanであった。歴史的にみれば数詞「an」から不定詞「a/an」の用法が分かれた。「ひとつ」という意味が弱まると同時に発音も軽く「アン」になり、数詞から不定冠詞に性格を変えた。その後、12世紀中頃、子音で始まる語の前では「n」が落ち a という形で使われるようになった。子音の前での an から a への変化は緩やかだったので「h」「w」「j」の音が使われる「house」「woman」「useful+名詞」などの前では長い間 an が使われた。1847年に発表された「ジェーン・エア」には an hospitalという例がある(「英語の歴史から考える 英文法の『なぜ』」)』と書きました。母音で始まる語の前で a ではなく an を用いるのは、英語は発音しにくい母音連続を嫌うからであるという説明は、一部真実ではありますが、歴史的に見れば誤りです。

それでは、なぜ「子音で始まる語の前ではnが落ち a という形」になったのでしょうか?
『英語の「なぜ」に答えるはじめての英語史(堀田隆一 研究社)』によれば、中英語(1100-1500年)以降、数詞としての one と不定冠詞 an の役割分担が明確に区別されるようになり、且つ、現在でもそうですが、oneは強勢が置かれる語である強形である一方an は強勢の置かれない弱形の語でした。即ち、数詞としての one と不定冠詞 anは、音的にも意味的にも明確に区別されるようになったということです。弱形化した an は次の語とくっつけて恰も1語のように発話されます。次の語が母音で始まる場合には n があった方が発話し易いので母音の前のan は今日まで生き延びたということだと思います。英語は発音しにくい母音連続を嫌うということは音韻研究で証明されているようです。逆に子音連続も発音しにくいので、恰も1語のように発話するのには不便であったため次第に「子音で始まる語の前ではnが落ち a という形」になったと思われます。一言で言えば、歴史的にはa の語源は an(ひとつ)であり、その頃は子音の前であれ母音の前であれ全てanであったがanは不定詞としての役割に限定され、且つ弱形で発音されたことが相俟って、今日の姿になったということです。