前に次の様に書きました。
強勢の置かれる位置にも歴史があります。ゲルマン語系の単語は1音節が多いこともあって(1音節の単語であっても必ず強勢は置かれます。英語の大きな特徴の1つです)、2音節以上の単語でも、弱い接頭辞が付される場合を除いて、第1音節に強勢が置かれるのが原則でした。ところが1100年以降の中英語には後ろの方の音節に強勢を置こうとするフランス語やラテン語からの借用語が大量に流入するに及んで、ゲルマン語的なパターンは乱された結果、現代ではどの音節に強勢が置かれるかを類推するのは難しく、辞書で確認する以外ありません。「record」のように名詞と動詞で強勢の置かれる位置が異なるものも出てきました。著者は父親から「名前動後」(名詞の強勢は前、動詞の強勢は後ろ)と習いました。

この「名前動後」は受験英語の世界では今では次のように指導するようです。
名詞と動詞が同じ形で、2音節からなる語は、名詞として用いられる場合には前の音節に、動詞の場合には後ろの音節にそれぞれアクセントがあることが多いのです。これを「名前動後」と覚えておきましょう。

「名前動後と言われているもの」例:
accent (名前動前もあり)
addict
annex
combat
combine(動前もあり、名後もあり)
concert
contract
contrast(動前もあり)
convert
discard
discount(動前もあり)
discourse(動前もあり)
dismount(名後もあり)
export(動前もあり)
finance(名後もあり、動前もあり)
implant
import
misprint(名後もあり)
object
permit(名後もあり)
protest(動前もあり)
reject
research (名詞、動詞共前後あり)
transplant
transport
上記はジーニアス英和大辞典で著者がイギリス英語・アメリカ英語の発音だけをざーとチェックしたものです。カナダ、オーストラリア、ニュージランド、南ア等では異なるアクセントがあるかもしれません。上記をみただけで「名前動後」というルールがあるとは言えません。名詞と動詞は英語では発話される場所が異なるので、極端に言えばアクセントの置かれる場所が、文法的に、現実に問題になることは少ないでしょう。しかし、「名前動後」がどのようにして起ったかは知りたいところではあります。

英語は,初期中英語期(1100−1300年)に起こった屈折語尾の消失により,容易に品詞転換 (conversion) の可能な言語となりました。これは言語としては希有の現象であり,特に近代英語期(1500−1900年)以降,語を派生させるのにフル活用されてきました。現在の名詞と動詞で綴りが同じであることは辞書を小まめに引いていると大抵の動詞に名詞としての使い方があることが分かりますが、その原因がこれだったのかと分かります。それにしても両者のあいだでアクセントの位置に区別がつけられたのはどうしてでしょうか。その淵源は古英語,以前にあったようです。

前に書いたことと重複しますが、古英語の単語では原則として第1音節にアクセントが落ちたが,接頭辞による派生語では,その接頭辞が強形として使われているか弱形として使われているかによって,アクセントの位置が変わりました。接頭辞が強形として用いられている場合にはその接頭辞にアクセントが落ち,弱形として用いられている場合には語幹の第1音節にアクセントが落ちたのです。興味深いのは,派生名詞の接頭辞には強形が,派生動詞の接頭辞には弱形が,体系的に付加されている点です。「名前動後」のモデルの起源は,すでに古英語に存在したのです(Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959. 30—31)。

統計的に見れば、名詞と動詞が同じ綴字の2音節言語で一番多いパターンは「名前動前」で約7割強、「名後動後」は15%強、「名前動後」は11%強、「名後動前」は全くないようです。

この結果はどう見ればよいのでしょうか。
ゲルマン語系の単語は第1音節に強勢が置かれるのが原則だったので、現在の2音節語の大半が未だ第1音節に強勢が置かれている。ところが1100年以降の中英語には後ろの方の音節に強勢を置こうとするフランス語やラテン語からの借用語が大量に流入するに及んで、第2音節に強勢が置かれる単語が出現。屈折の衰退、品詞転換の拡大、ラテン語系の後ろから数えて何番目の音節に強勢を置くことが決まっているルールの採用等が複雑にからみあって「名前動後」の2音節語が増加中というのが1つの見方でしょうか。いずれにしても「名前動後と言われているもの」例で検証したように、強勢の置かれる位置は、英語の歴史を振り返れば、固定的なものではないということは事実のようです。

以上は1単語だけを取り上げた強勢の置かれる場所の議論の1部でしたが、そもそも「強勢」を置くということは、そこは明確に認識して欲しいという気持ちがあるからです。名詞、動詞、形容詞、副詞は明確に認識しても貰わないとコミュニケーションが成り立たないので常に強勢が置かれます。一方、代名詞、冠詞、前置詞、接続詞等は英語を母語とする人々には文脈から、そんなに注意を払わなくても支障がないため通例は強勢が置かれません。しかし、実際の会話では、そこは明確に認識して欲しいという気持ちがあれば代名詞、冠詞、前置詞でも強勢を置きますし、文脈から、そんなに注意を払わなくても支障がない場合は強勢が置かれません。次は Longman の First Things First からの例です。下線部のある単語のみに強勢が置かれています。
A: My husband likes steak, but he doesn’t like chicken.
B:To tell you the truth, Mrs Bird, I don’t like chicken, either.
皆さん、上記の下線部のないところは夫々1拍置いて発話せず、下線部のある所のみ強勢を置いて発話して見て下さい。不思議に通じますよね。