前に次のように書きました。
ルネッサンス期(1300 – 1600年)になると、古典語への関心が高まり、イングランドの知識人たちはラテン語やギリシャ語にかぶれた言語生活を送っていました。特に16世紀後半だけでも、ラテン語の単語は12000語流入し、英語の語彙史において最も流入が著しかった時代でした。

この時代、語彙のみならず英文法書はラテン語を手本に書かれました。そして、ラテン語重視の流れは、綴字にも見られました。中英語期(1100−1500年)にフランス語を経由して英語に入ってきたラテン語は元々のラテン語の語源が崩れているものが多かったようです。ルネッサンス期の学者たちは学があり、元々のラテン語の原形を知っているだけに、この現象を「嘆かわしい」として、ラテン語の語源を参照して綴字を一方的に直していきました。しかし綴字を一方的に直しても庶民の発音までは直せませんでした。この現象の1例がdebt, doubt です。

debtの語源はラテン語のdebitum ですが、フランス語を経由して英語に入ってきた時には dette となっておりb の発音も消えていました。ですから発音は現在も[det]です。綴字の方は、おそらく語源にあるb を復活させてdebtの形になったものと推察します。doubtの語源はラテン語のdubitare ですが、おそらくdebtと同じ様な経緯を辿ったものと思います。

island も s がありながら発音されない不思議な単語の1つですが、こちらの方はジーニアス英和大辞典によれば「語源は古英語 igland(水に囲まれた土地)。古フランス語 isleの影響でislandに変形」とありますので、debt, doubt とは歴史的な事情は異なるようです。