(3) 日本語の「を」は英語に訳す場合、動詞の目的語としてはいけない場合がある

日本語の「を」にはつぎのような使い方があります(デジタル大辞泉)。
(1) 動作・作用の目標・対象を表す⇒「家を建てる」「寒いのをがまんする」「水を飲みたい」
(2) 移動の意を表す動詞に応じて、動作の出発点・分離点を示す⇒「東京を離れる」「席を立つ」
(3) 移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す⇒「山道を行く」「廊下を走る」「山を越す」
(4) 動作・作用の持続する時間を示す⇒「長い年月を過ごす」「日々を送る」

(1) の「家を建てる」「寒いのをがまんする」「水を飲みたい」は「主語は家を建てる」「主語は寒いのをがまんする」「主語は水を飲みたい(又は、主語は水が飲みたい)」で「建てる」「がまんする」「飲みたい」という動作を示す動詞の直接の対象を示しています。このような場合は、英語でも「主語+他動詞+目的語」で表します。逆に言えば英語で「主語+他動詞+目的語」の構文であれば、その目的語は動詞の直接の対象になるということです。例えば「I walked.」は「私は歩いた」で自動詞。「I walked my dog.」は「私は私の犬を歩かせた」で他動詞
(2) の「家を建てる」は通例「build a house」で表しますので「They are building the house.」あるいは「受け身」にして「The house is being built.」のような文になりますが、英語では、上記で見たように、ほとんどの動詞が他動詞と自動詞の両方で使えます。build にも自動詞があって、やや古い言い方ではありますが「The house is building.」も可能です。「建築中の」は「under construction」でも表せますので「The house is under construction」も可能です。「寒いのをがまんする」は「寒さに耐える、寒さを我慢する」は肯定文では「put up with the cold」、否定文では「can’t bear the cold」がよく使われます。
(3) の「東京を離れる」は「東京を去った」とも言えますので「I left Tokyo.(「私は東京を置き去りにした」ニュアンス)の様に他動詞を使うことが出来ますが、東京を起点として捉えるならば「I left from Tokyo.(東京から出発した)」。「席を立つ」は文脈によって英語訳は変えないといけません。単に「立ち上がった」の意なら「She stood up (from the seat).」。「会合の席を立った」なら「She left the meeting.」。規範文法に照らせば「大学を卒業する」は「graduate from college」ですが、アメリカでは「graduate college/high school」も口語では広まっているようです。言葉の使い方は変っていくのが歴史の教えるところです。
(4) の「山道を行く」「廊下を走る」「山を越す」の「行く」「走る」「越す」は日本語では自動詞です。ですから、ここの「を」は動作の対象を示すのではなく、動作の経由する場所を示しています。「山道を行く」は「山道を通って行く」イメージですから「go through the mountain road」。「廊下を走る」は「run through/down the corridor/hall」。「山を越す」は「山を越えて行く」ですから「go/climb over the mountain」。しかし「彼女の病気は山を越した」のような場合は「彼女の病気が自分で本当の山を越えて行った」ではなく「彼女の病気は危機を通り過ぎた」ですから「Her illness has passed the crisis point.」がよいでしょう。

(5) の「長い年月を過ごす」「日々を送る」はデジタル大辞泉によれば「動作・作用の持続する時間を示す」で、英語なら「for」が対応します。しかし英語での表現では「He spent many years abroad/in foreign countries.」「He’s having boring days.」と動詞の動作が及ぶ対象として表現できます。「動作・作用の持続する時間を示す」for を使うなら「He has lived in America for a long time.」「He’s been bored for many days.」のような表現もできます。